パワーポイントマン、起業する。
水島 洋介さん
株式会社ミズノワ代表取締役
1984年4月29日生まれ。元民間保安法人の営業マン。 入社10年目で部門長を経験。電気主任技術者のつながりをつくりたいという想いから会社を退職し、2019年カフェジカをオープン。
–はじめまして。まずは水島さんの経歴から教えてください。
よろしくお願いします!なんでも聞いてくださいね!
僕の出身は大阪の茨木市で、大学も府内の学校に進学しました。小さな頃から「とにかくたくさん遊べ、でも真面目に遊べ」と言われて育ったので、大学ではイベントサークルを仲間と立ち上げ、会長をしていました。
僕はゲコなので、いわゆる飲みサーではなく、本気で遊ぶ鬼ごっこを企画するなど、とにかく面白そうなイベントを毎月つくり続けていましたね。
ー就職先はどちらに?
父は小さな頃から倉庫業を営んでいたので、会社を立て直す手助けができたら良いなと、流行りのコンサル企業に応募しました。
最終面接の課題は、新規事業を社長にプレゼンすること。可能であればパワーポイントを用意してくださいと伝えられていました。
僕、大学でパワーポイントなんて触っていなかったから、そういうツールがあることを知らなかったんです。なので、「パワーポイント=自分のストロングポイント」だと思っていたんですよね。面接で「パワーポイントはありますか?」と聞かれたとき、「はい、僕のパワーポイントは、人前で堂々と喋れることです!」って答えたら、みんながきょとんとしてしまって。なんとか合格しましたけれど、しばらく「パワーポイントマン」って呼ばれていました。
ーなかなか大変なスタートだったと思いますが、会社での仕事はいかがでしたか?
格好良いなと入社したコンサル企業でしたが、ふたを開けてみたら、電気保安をやっている会社だったんです。僕、文系の学部だったから数学なんてできないし、電気なんて正直まったく興味がなかったし。営業職でのスタートだったのですが、自分の学びになれば良いなと思い、とりあえず3年は続けてみることにしたんです。
そして実際に働いてみたら、これがめちゃくちゃ面白くて!点検先の企業さんに電気保安の内容を丁寧に説明すると、すごく喜んでくださって。技術者さんにも新しい点検先の情報を伝えたり、窓口対応をしたりすると、お礼を言っていただけますし。「ありがとう」があふれる仕事だなと、すごく嬉しかったんです。最初は3年で良いやと思っていたのに、気づいたら10年も続き、役職もついていました。
ー順風満帆な会社員生活だったのに、どうして起業しようと思ったのですか?
仕事を続けているうちに、業界全体の課題を解決したいなという想いが芽生えてきたからです。
技術者同士は横のつながりも少なく、高齢化が進んで、人材不足が深刻です。また、実務経験をかたちの上では積んでいても、知識がほとんど身についておらず、不安を抱えながら入職される方もいらっしゃいます。もっと電気設備について気軽に学べて、電気が好きな人たちが気軽に喋れたり、実際に機材を触ったりしながら交流できる場所があったら良いなと、ずっと思い描いていました。 それに、父が自営業をしていたのも大きかったのかもしれません。自分の力で居心地が良い空間をつくりたいと、起業を決意しました。
技術者さんにとことん寄り添う、カフェジカの誕生!
ーそして誕生したのが、「カフェジカ」なんですね。
「Cafe 自家用電気」を略して、カフェジカ。2019年にオープンしました。
ほとんど貯金がないまま店舗運営ができる物件を探していたのですが、大阪市内は家賃がすごく高くて……。そこで電気工事会社さんや工場が多い東大阪市はどうだろうと調べて見つかったのが、今の店舗です。最寄りの若江岩田駅からは歩いて10分かからないし、駐車場もあるし、もうここしかないなと。
オープン前には、クラウドファンディングにも挑戦しました。開業資金を集めることはもちろんですが、どれだけニーズがあるんだろうと調べる目的もあったんです。コンサル企業での経験から、関西ではカフェジカのようなサービスは需要があるだろうと確信していましたが、全国的にはどうだろうと知りたかったので。
ー挑戦してみて、手応えはいかがでしたか?
クラウドファンディング会社からは「水島さんを知らない人からの支援は、1〜3%くらいだと思ってください」と言われていました。もともと僕は電気関係の友人がおらず、協力をお願いするのは申し訳ないという想いが勝ってしまって、「支援してほしい」と全然頼めなかったんです。
しかし結果的には、120%以上のご支援をいただき、無事に達成することができたんです!支援者の90%ほどは、はじめましての方ばかり。こういう結果が出たんだから、「もう勢いでやっていこう!」と気持ちに熱が入りましたね。 そしてカフェジカのオープンにあたって、運営会社として株式会社ミズノワを設立しました。
ーミズノワでは、他の事業も行っているのですか?
技術者さんへの職業紹介を行っています。こちらはリモート中心で行っているので、全国にサービスを広げています。
僕たちの活動はカフェジカが目立つことが多いので、職業紹介をしていることを知らない方も多いんです。もっとアピールしたいという気持ちもあるのですが、売上に走りすぎてしまうと、技術者さんに寄り添うという一番大切な姿勢が崩れてしまうので。無理に紹介してお金を稼ぐのではなくて、必要な方に届いてくれたら良いな、という気持ちでやっています。
カフェジカを各地に展開したい気持ちも強いのですが、職業紹介を全国で展開できていますから……。あえて違う土地にコストとリスクをかけて出店しなくても、この東大阪のお店を技術者さんの聖地にしながら、Zoomでもイベントを開催して、繋がりを全国に拡げて行きたいなと考えています。
ーYouTubeチャンネルも人気ですよね!
ありがとうございます!実際には危険で出来ないような高圧での電気実験の動画は、9万回以上(2024年取材当時)されています。
その他にも情報発信には力を入れていて、「転職×電験」では他社さんが言わないような現実的な年収や可能性の話も記事にしたり、LINE公式アカウントでは、そういった最新情報を皆さんに定期的にお伝えしています。
転職のために電気主任技術者資格を取得しようとする方は、電験の転職情報について詳しく知った上で、学習に打ち込んだ方が絶対良いので。そして電気保安業界に進むことが決まった方には、技術を磨いていただける機会をつくりたいと思います。実際現場では見れないことも多いですから、そのお手伝いができれば嬉しいですね。 ということで、電気主任技術者を必要としている企業さんは全国にいらっしゃいますので、ぜひお気軽にご相談ください!
あほちゃうかと言われるほど、毎月イベントを企画。
ーカフェジカは、日々どのように運営しているのでしょうか。
基本的には毎週土曜日のお昼過ぎからオープンして、その他の日は、僕たちが会社の仕事をしています。1回だけコロナでキャンセルしたことと、年末年始を除けば、ほぼすべての土曜日にカフェジカをオープンしていますね。
カフェジカは完全予約制にしていて、集まった皆さんには自己紹介をお願いしています。繰り返し来ているお客さんは「前もご一緒しましたね」と話がはずみ、仕事が生まれることもあるんですよ。少人数の方が皆さんの満足度も高いので、今は定員数を8人くらいに設定しています。 また、通常のオープン日のほかに、毎月1〜3回はイベントを開催しています。「そんなにイベントをやるなんて、普通では考えられない。あほちゃいますか?」とスタッフから(いい意味で)言われることもあるんですけれど、もともと僕はイベントが大好きでしたし、学生時代の延長線のような感じで企画や準備、反省、挑戦を続けています。
ーイベントでは、どのようなことをするのですか?
実務を交えた勉強会や、電験(電気主任技術者試験)に向けた対策講座、電気機器の深堀、試験器を用いたリレー訓練会など、様々です。
カフェジカの強みは、関わってくださる講師の方々。講師は何名かいるのですが、中でも行政書士の資格を持つあきら博士というメンバーとは、5年ほど一緒に店舗運営をしています。電気事業法をアニメのストーリーのように教える講座から始まり、電気主任技術者の関係法令や保護協調、月次点検や年次点検など、毎週のようにたくさんのイベントを開催してきました。「ジカスト」というECサイトで、アーカイブ動画と資料を販売しているのですが、こちらも人気があるんですよ。
ー反対に、失敗したイベントはありますか?
人狼ゲームですね。これは、カフェジカのバイトスタッフを募集しようと目論んで企画しました。
もともとカフェジカを知っているお客さんが参加すると意図が異なるので、SNSではなく地域のWEB掲示板などを使い、平日に暇をしている若者を狙ってみました。でも、結果的に誰も集まりませんでした(笑)SNSの力は絶大ですね。 道具を揃えて、餅つきをしたこともあります。人数制限を取り払って募集してみましたが、スタッフ以外で参加したのは、ご夫婦一組だけ。身内ばかりの変な空間に迷い込ませてしまったなと思いましたが、旦那さんの方は、それからしょっちゅう来てくださるようになりましたね。
ーお店の中に並んだ、たくさんの高圧機器。揃えるのは大変だったのではないですか?
実は設備には、ほぼお金をかけていないんですよ。
最初のうちはオークションやフリマサイトで買っていましたが、皆さんからの寄付がほとんど。自分1人が持っているより、たくさんの人に触ってもらえた方が役に立つでしょうという、思いやりの集合体です。普段扱えないような機材でも、カフェジカでならいくらでも触って大丈夫だし、壊れたらその原因をみんなで考えたら良いですしね。
完全予約制で、安心のコミュニティ。
ー皆さん、どうやってカフェジカのことを知り、訪れるのでしょうか。
イベントの告知は定期的に発信していますが、一番影響が大きいのは、毎年行う電験の解答速報ですね。試験当日の夜に解答速報を出している企業さんもいるのですが、僕たちは試験が終わった直後に出すことにしたんです。 電験の試験は90分。開始から60分で会場を出てくることができるので、残りの30分で天才の皆さんに協力していただいて解答を仕上げ、自社のWebサイト上で公開しています。
ー終了直後の公開はすごいですね!他にも、手応えを感じた取り組みはありますか?
一般の方にも、もっと電験の魅力を知ってもらいたいという想いから、2022年に「電験のうたコンテスト」を開催したことがあります。これまで業界を知らなかったような友人からも反応があり、とても嬉しかったですね。
あと、例えば古くなったキュービクルにアート作品を描くとか、他の文化をかけ合わせて面白く見せることは、定期的にやっていきたいなと思います。
ーカフェジカには、どのような方が来るのですか?
多種多様な方が利用してくださっていてバラつきもあるのですが、電験を取って3年くらいの皆さんが多いですね。次のステップに向けて情報や可能性を探しに来たり、どれくらい実務が身につけられるか、カフェジカにある機材で確認されたりしています。試験に向けて勉強中の方や、学生さん、親子連れの方もいますよ。
完全予約制にする前は、誰が来るか分からないので、毎回緊張していたんですよね。今、カフェジカで講師をしていただいている方も、もともとはお客さんでした。電験一種を持っていて試験業務バリバリの方なのに、それを知らなくて「これ、キュービクルって言うんですよ~」なんて案内してしまって……。今思えば、恥ずかしくて震えてしまいますね。
そんな経験があったから、予約時にあらかじめどういった方が参加するかを把握し、どんなことに興味を持たれているかを事前に知った上で、「いらっしゃいませ」が出来るような流れを作っています。
お客さんは、ずっと通い続けるというより、次のステップが見えたら卒業し、また新しい方が来るような繰り返し。オープンから5年も経つと、当時は勉強中だったけれど、今では現場でバリバリと電気保安をやっているお客さんも何人もいます。そういう方がまた顔を見せに来てくださったときは、すごく嬉しいですね。
人生の転機を、カフェジカでつくる。
ーカフェジカをオープンして5年。業界で変わったなと感じることはありますか?
当時と比べると、法律は色々と変わりましたよね。短期講習の期間が5年から3年になりましたし、これから更に短縮されるという動きもあるようです。
反対になかなか変わらないのは、教育体制かなと思います。電験は国家資格なので、勉強するための学校や教材はたくさんありますよね。でも、試験と実務では内容が全然違う。その先は、会社や現場でぶっつけで学ぶしかないという問題があるんです。
ーなるほど……。そんな問題に対して、水島さんが取り組みたいことはありますか。
電気保安は目には見えないので、実務について十分な理解がないままでも仕事ができるし、売上も入ってきます。お客さんを満足させられないのに、お金がまわってしまう。もしそんな状態が続いたら、電気保安なんて必要ないじゃんと、業界全体の価値がどんどん下がってしまいますよね。
若輩者の僕が言うのはおこがましいのですが……。自分の知識やスキルに不安を抱えたまま現場に行くのは、技術者さんにとって大変な背徳感やストレスだと思いますし、そんな負の感情を抱えたまま仕事をする人を増やしたくない。だから僕の立場から言えるのは、もっと実務的な教育の場を増やしていきたい、ということです。
会社の教育体制を整えるお手伝いをしたり、実務の民間資格をつくったりと、取り組みたいことはたくさんありますね。
ー最後に、水島さんが感じる、この業界の魅力を教えてください。
電験は難関資格なので、取れたら大きな自信につながります。情熱を持って業界に入ってくる方にも、これまでたくさん出会ってきました。実務経験を積んで法人で働くも良し、独立するも良しと、人生にたくさんの選択肢が生まれます。
そんな人生の転機を、これからもカフェジカを通してつくっていけたら最高ですね。
文・写真:小黒恵太朗